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企業行動のマクロ経済へのインプリケーション

企業行動のマクロ経済へのインプリケーション

 

 2017.09.09

 日本経済の最近の低迷は”失われた25年”と呼ばれている。2025シミュレータでは、この低迷は、日本企業がIT革新時代に、世界競争に勝ち抜けていないことが原因だと考え、マクロ計算以外に、日本と世界企業の企業比較を行っている(シミュレータの「企業行動)スイッチ)。

 

 最近になって、この議論に一つのサポーターが現れた。それは、先進国のマクロ経済の低迷はマクロ現象ではなく、企業行動(より詳しく言えば、IT革新下における企業行動)に目を向けるべきだという主張である(Loecker and Eeckhout ,2017)。

 

 この論文の主旨は、巨大企業の市場支配力が、1980年代以降急激に高まってきたというものだ。これはマークアップ率を計測することで求めているが、要するに企業の利益率(売値-原価)が高まることを意味する。

 

 このことのマクロ的インプリケーションは、原価分の低下だ。つまり労働や資本への支払い分が低下する。Loecker and Eeckhoutは、このことのマクロ経済への影響を論じている。それは(1)賃金支払い分の低下、(2)資本への支払い分の低下、(3)低熟練労働者賃金の低迷、(4)労働力参加率の低下などである。まさに企業行動がマクロ経済のパーフォーマンスに影響を与えているというのが彼らの主張だ。

 

 IT革新における企業行動の問題は。このブログでも、IT企業の驚くほどの利益率の高さという形で取り上げてきた(アップルとクアルコムの戦い,2017年5月6日)。Loecker and Eeckhoutの分析は、それを、IT分野だけでなく、市場一般にまで広げたものとみることができる。つまり先進国の現在の経済低迷は、マクロ変数間の関係のみを追うだけでは、理解できず、IT革新の担い手であり、受け手である企業の行動を分析しないとわからないということだ。

 

 日本の場合は、さらに世界企業に日本企業がうまく太刀打ちできていないという問題が重なっている。IT革新は変化のスピードが速い。自動運転もアイデアから実現まで10年ほどしかかからなかった。東芝などのていたらくを見るにつけ、日本企業、いや日本経済がIT革新に対応できているとは思えない。最近、日本経済の景気回復云々が言われるが、これは政府のなりふり構わない財政・金融拡張策によるもので、長期的に持続可能なものではない。

 

 2025シミュレータは、こうした各種の計算が自分でできるようになっている。現在はちょっと忙しいので実現していないが、そのうちに、日本経済に関する様々な計算例をウェブ上で公開していきたいと考えている。これはシミュレータのユーザが自ら再現可能なものである。このシミュレータを使うことで、ユーザが日本経済の動きを体得できるようになれば、ソフト作成の意味があったというものだろう。

 

(参考)

1)”企業の巨大化は世界を幸福にするか”、WSJ、2017年8月3日

  "A Provovative Look at the Harm from Corporate Heft"

2)Loecker J.,Eeckhout J:,"The Rise of Market Power and the Macroeconomic Implications",Aug.24,2017