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"日本株式会社"の終わり?

"日本株式会社"の終わり?

  2017.06.17

・最近フィナンシャル・タイムズ紙を読んでいたら、「東芝に関する日本株式会社の沈黙は東京に冷気を流している」というやや皮肉めいた記事が目についた。

 

・たしかに最近の東芝の迷走は目に余る。またそれに対する官の動きも不透明だ。知人のアメリカ人と話していたとき、東芝に触れると、1990年代に生じた東芝に対するPC訴訟のことを思い出すといっていた。確かにこの訴訟で東芝は,たいした粘りも見せずに巨額の賠償金を支払い、それは訴訟を起こした当事者にとっても驚きの事態だったようだ。

 

・今回の東芝をみて思い出すのは、2011年から2012年にかけて生じたオリンパス事件のことだ。さいわいこの件に関しては、優秀なジャーナリストが,当事者として最初から最後まで関わっており、このため、われわれは何が起こり、何が問題だったかを知ることができる。

 

・オリンパス事件の根本は、菊川元会長が会社を私物化し、その海外投資の失敗を表に出さないために、怪しげな企業買収を行い。それを使って損失隠しを行ったことだ。もちろん同じようなことは,海外でも起こりえる(例:エンロン)。しかし欧米と日本との違いは、欧米では,徹底的な膿だしが行われるのに対し、日本では”事なかれ主義”でなんとか丸く収めてしまうことだ。

 

・これははっきり言って資本主義とはいえないだろう。日本でも企業に問題が生じた時、それに対するチェック機能は表面上はそろっている。たとえば企業に不正があれば、マスコミがたたくというのが考えられる。しかしオリンパス事件の場合、これを取り上げたのはファクタだけであり、当初、既存の新聞、経済誌、テレビなどは一切ほおかむりをした。それは企業から広告費などを得ているため、真実に対する探求が及び腰になるからだ。

 

・それ以外にも、企業の決算を監査する監査法人、監査役、さらには企業が上場している場合には,東証など、いろいろなチェックメカニズムがあるはずだが、どれもがうまく機能していなかったようだ。

 

・オリンパス事件が公になったのは、山口氏というジャーナリストに加え、ウッドフォードという英国人の存在が大きい。かれは、英国オリンパスのたたき上げで,2011年に社長に引き上げられたが、実際には,菊川氏がCEOの職を手放さないため,実権は与えられなかったようだ。

 

・しかしフッドフォード氏はファクタ誌の記事を読むやいなや、菊川氏らに厳しい論争を挑んだ。しかし、その結果社長職を解任されてしまう。しかし問題の重大性に鑑み,彼はこの件を英国の重大不正捜査局(SFO)に持ち込み、海外の捜査機関が動くことで,ようやく日本の規制当局も動き出すということになった。しかしウッドフォード氏は銀行の協力も得られず、結局委任状闘争をあきらめて、日本を去って行った。

 

・ウッドフォード氏が山口氏にいったのは、「どうして日本人はサムライと愚か者がこうも極端に分かれてしまうのか」といった問いだった。オリンパス事件は,結局東証が上場維持を決め,何事もなかったかのように終わってしまった。

 

・しかしこれによって、山口氏も書いているように、「日本企業や日本人に対する世界の評価」は地に落ちた。東芝事件を見ると、オリンパスの二の舞という感じがする。そろそろ”日本株式会社”から抜け出さないと、日本経済が世界から相手にされなくなってしまう危険すらある。日本経済の低迷は、成長率や物価のようなマクロ変数ではなく、日本企業のこうした体質にこそ、原因を求めるべきだろう。

 

(参考)

Lewis L. and Inagaki K,"Japan Inc's silence over Toshiba sends chill across Tokyo",FT,2017/06/14

山口義正、「サムライと愚か者:暗闘オリンパス事件」、講談社、2012