インテルとイノベーションのジレンマ

インテルとイノベーションのジレンマ

 2017.06.03

・ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセンが唱えた,イノベーションのジレンマは、IT時代に、企業の盛衰に関して特に注意すべきポイントだろう。

 

・イノベーションのジレンマは、簡単に言うと、ある技術で優位に立つ有力メーカーが新たな破壊的技術を持つメーカーが台頭したとき、結局それに対抗できずに、没落していく現象を言う。クリステンセンは,没落した有力企業としてDEC(今は知る人もないかもしれないが、これはミニコンメーカーでかってコンピュータ業界を席巻した)やコピー機械のゼロックスなどをあげている。

 

・この議論のポイントは,業界を抑えていた有力メーカーが,“優れた経営”(綿密な市場調査、規模の小さい市場にはすぐ参入せず、規模が大きくなるまで待つ,製品の改良に努める)に頼ることによって、むしろリーダーの座を失うパラドックスにある。その原因は破壊的技術が最初はまるで使いものにならないように見え、その市場も小さいからだ。それがきわめて短い時間の間に、性能が急速に向上し、既存の市場を置き換える新たな市場を構成し、そのときに”有力メーカー”が対応しようとしてもすでに遅いからだ。

 

・インテルと言えば、CPUでは世界のトップだが、まさにこのジレンマに遭遇しているような感じがする。まずモバイル分野では、CDMA技術をもつクアルコムに勝つことができなかった。

 

・さらに現在の動画時代+自動運転時代には、このクアルコムも対応ができているとはいえず、対応策としてNXPセミコンダクタの買収に踏み切っている。さらに最近ではアップルがクアルコムのライセンス料が高すぎるといってけんかを売っている。

 

・では現時点の勝者といえば,なんと言ってもエヌブイディアだろう。インテルのCPUが強い時代、エヌブイディアは,グラフィック・プロセッサーのメーカーだった。そのGetForceは、とくにゲーム愛好家に好まれ、競ってこのボードをpcに差し込んだものだ。おそらく動画の高速描画と並行処理で磨いた技術が、ブロード・バンド化と自動運転時代にふさわしい”破壊的技術”となったのだろう。

 

・インテルも自動運転に関しては、イスラエルの自動運転関連企業モービルアイの買収(2017年3月)によってこの失地を回復しようとしているが,さてどうなるだろうか。

 

・この変遷の中で,もう一つ気になるのは,インテルのライバルメーカーAMDの消長だ。AMDは実は,グラフィック・プロセッサーとしてRadeon(買収したカナダのATI社の製品)を売り出し、エヌブイディアのGetForceとあるところまでは良い競争をしていた。ということはAMDは,動画技術にもある程度の優位性を持っていたはずだが、結果はエヌブイディアの一人勝ちとなった。ついでに思い出せばソニーがゲームマシン向け(プレイステーション3)にIBMなどと開発を進めていたCell Broadband Engineはどうしてうまくいかなかったのだろうか。

 

・いずれにせよ、イノベーションのジレンマ仮説は、IT業界の変遷を見るのに、面白い視点を与えてくれる。自動運転の分野でも、トヨタやGMのような自動車専門メーカーはこれからこの”イノベーションのジレンマ”にぶつかる可能性が高いといえる。

 

(参考)

クレイトン・クリステンセン、「イノベーションのジレンマ」、玉田俊平監修、伊豆原弓訳、翔泳社、2010年

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