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夕張市の”転換”

夕張市の”転身”

 2017.03.25

 ・最近の新聞報道によると、総務省は財政再建中の夕張市の再生計画の見直しに同意し、100億円以上の新規事業の実施に踏み切るという。

 

 ・ご承知の通り、夕張市はかって炭鉱町として栄えたが、1960年代からエネルギー革命によってエネルギー需要が石炭から石油に変わると、人口が減り急速に衰えた。

 

 ・これに対応するため,当時の市長は「石炭から観光へ」とのスローガンのもとにテーマパークやスキーリゾート開発に邁進したが、そのどれもが実らず、結局2006年に630億円もの負債を抱えて事実上倒産した(財政再建団体となる)。その背景には、「出納整理期間」を利用した赤字飛ばし、20年以上も市長を務めた中田鉄治氏とそれを無条件に支えてきた市議会の存在が大きかったといわれる。

 

 ・その後、2011年に東京都から財政再建のために出向してきた若手の鈴木直道氏が市長となり、財政再建に携わり現在に至っている。その鈴木氏が続けてきた財政支出の削減による再建計画が、夕張経済の縮小均衡を止められなかったため、財政支出路線に転換せざるをえなかったようだ。

 

 ・この転換の背景を理解するには、作家の佐々木譲氏の小説、「カウントダウン」を読むのがベストだ。

 

 ・佐々木氏は夕張市の生まれであり、そこで何が起こったかを熟知し、それを小説仕立てにした(彼の言葉を使えばポリティカル情報小説)。彼は、夕張問題が単なる地域問題ではなく日本経済自体の根幹に関わることを見抜いている。

 

 ・それはこの小説の文中人物の発言、「もう日本は、全体が夕張みたいなもんだ。・・・日本も見切りどきなんだ」(p148)に集約されているといえよう。

 

 ・日本経済も、IT革新に乗り遅れ、大胆な構造改革が行われないため、競争力が落ちている。それを糊塗(こと)するため、財政支出の拡大で当面の経済を維持するという路線を取り、これが公的債務の累積をもたらしている。日本経済は、まだ夕張のように財政破綻に陥ってはいないが、近い将来、夕張市と同じことになるかもしれない。

 

 ・今必要なのは、民間企業が健全な資本主義精神を発揮して、独自製品を生み出し、それを武器にして世界市場に乗り出していくことだ。これがかってホンダやソニーのやってきたことである。しかし東芝やオリンパスの醜態を見るにつけ、今の日本企業にその活力は、すでに失われてしまったのかもしれない。

 

 ・地域に戻れば、政府や東京の大手コンサルに頼らずに、自らの知恵で道を開こうとしているところもないではない。岩手県紫波町はその一つといえよう。

 

(参考文献)

1)佐々木譲、「カウントダウン」、新潮文庫、2013年

2)保母武彦、河合博司、佐々木忠、平岡和久、「夕張、破綻と再生」,自治体研究社、

2007年