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シュティグリッツ症候群

シュティグリッツ症候群

 2017.03.19

・先週、アメリカの経済学者シュティグリッツ氏が訪日し,政府の経済諮問会議で講演を行ったようだ。新聞報道などによると、政府はアベノミックス第二ステージの援護射撃として,この講演を活用するようだ。

 

・ところで、知り合いのアメリカ人と雑談をしていたら、彼は「なんで日本人はクルーグマンやシュティグリッツなどを呼んで話を聞きたがるのかな」と首をかしげていた。

 

・それも道理で、彼らが今の日本経済をきちんと理解しているとも思えないし、またこうした招待には、通常高い講演料がつきものだからだ。少し意地悪な見方をすれば、今回の招待は、アベノミクスの行き詰まりを、海外の著名学者のお墨付きをもらうことで、目くらましを図ろうとしているのかもしれない。

 

・シュティグリッツといえば、彼の名前を取ったシュティグリッツ症候群という言葉をご存じだろうか。これはブラックスワンで有名になったタレブの造語だ。彼は経済学者を含む有名人が,いい加減な予測や分析で人々を迷わし、しかもその責任をとらないことを,こう表現している。なぜシュティグリッツの名前が使われたかというと、彼がその典型例だからだ。

 

・シュティグリッツは2008年の金融危機でつぶれたファニー・メイ(米連邦住宅抵当金庫)のリスク分析を、いわゆるストレス・テストの形で行い,以下のような結論に達した。なお文中のGSEとは政府支援法人Government Sponsered Enterprises)のことである。

 

 「GSEがデフォールトする確率はきわめて小さい。これを前提とするとGSEが破産に直面する金融費用の期待値は比較的小さい。」

 

・しかしファニー・メイがこれとは異なる状況にあったことはすでに指摘されていた。たとえばウォールストリートジャーナル紙の記者カーニー氏は、この点に関して警鐘を鳴らしたことでローブ賞を受けたという。

 

・経済学者も人の子だ。間違うこともあるだろう。ただブラックスワンのタレブが問題にするのは、シュティグリッツの分析を信じた人がファニー・メイに投資したことの責任を彼はどう取るかということだ。医者が手術に失敗すれば,訴訟を起こされ、損害を賠償する義務を負う。エコノミストや評論家も間違った判断を示し,それを信じた人が被害を被った場合には、それなりの責任を取ったらどうだというのがタレブの主張だ。

 

・シュティグリッツ氏は,この問題で責任を取ったという話を聞いたことはない。しかしアメリカでは、彼の誤判断はウォールストリートジャーナル紙などできちんと取り上げられ、それなりの制裁を受けているともいえる。

 

・日本のマスコミも学者も、そろそろ困ったときの外来経済学頼みをやめたらどうだろうか。要は自分の手でデータをさわり、それから得られる結論を自分自身の頭で考えることだ。外国の高名な先生が、日本の現状に適した万能薬を持っているわけではない。

 

(参考文献)

1) Stiglitz J.,Orszag J and Orszag P,"Implications of the new Fannie Mae and Freddie Mac Risk-based Capital Standard",Fannie Mae Papers, March,2002

2) Nassim Taleb, Antifragile,p386,Random House,2002

3) Review and Outlook,"Systemic Risk and Fannie Mae",WSJ,Dec.1,2009