・最近日本でもフィンテックに関する議論がかしましい。
    ・この点に関して、英国銀行(日本でいうと日銀にあたる)のホールディンの議論が際立っている。
    ・若干背景を述べよう。アメリカ経済学と英国経済学の立場は、たとえて言えば、幕末の剣道場の立ち位置と比較するとわかりやすい。アメリカ経済学が千葉道場の北辰一刀流とすれば、英国経済学は斉藤道場の神道無念流とでも言おうか。
    ・2008年の金融危機まで、千葉道場のアメリカ経済学は時計仕掛けの精密機械のような議論を展開し、学会の中心を占めていた。ところが2008年以降、その技は鈍り、現実経済学の分析もうまくいかず(バーナンキ氏の議会証言、「よくわからない」)、その勢いに影が差した。日本の経済学はアメリカ経済学の直輸入だから、忠実に千葉道場のプリンシプルを守って、今も日夜稽古に励んでいる。
・これに対し、斉藤道場の英国経済学は、歴史感覚という広い視野と、鉈で薪を切るような大胆さで、現実分析に力をつけ始めている。この斉藤道場の塾頭がホールディンである。斉藤道場における高杉晋作のような立場といえよう。
・彼の議論は、広い視野と諧謔に満ちており、実に面白い。興味ある方は、彼の「犬とフリスビー」という論文を読まれることをお勧めする。
    ・本題に戻ろう。彼の議論は以下の通り。
    ・新しい金融技術としては、①分散型金融モデル、②分散型ネットワークにおけるビッグデータ分析がある。こうした技術は既存の金融機関にとっていかなる意味を持つのか。
    ・金融部門の売り上げに占めるIT支出の割合は、他の産業に比べて圧倒的に高い。にもかかわらず、過去一世紀にわたり、金融部門の単位費用(実質)は低下していない。
生産性はとくに2008年以降低下している。これは他の部門と比べ、特徴的である。ということは、フィンテックは既存の金融機関の生産性向上より、それの創造的破壊に役立つだろう。
・IT技術の最近の動きを簡単に見ていく。鍵はオンライン・プラットフォーム・エコノミーである。
     1)AirBnBに関して
     *これは、日本でも最近話題になっている民泊のネット版といってよい。AirBnBは施設提供者と宿泊希望者を結ぶサイトを運営する。
     *利用者は42.5万人/日で年間1.55億人に達する。
    これはヒルトンホテルの全宿泊者より2割以上多い。
    *宿泊者の評価は、既存の有名ホテル(例:ハイヤット)を上回る。
    * AirBnBの8割弱が既存のホテル街の外にある。ということは既存のホテルとAirBnBは補完的な役割を果たすことになる。
    2)Uberに関して
    *これは、日本でいう白タクで、自家用車を空いたときに、不特定な客を乗せて目的地に連れていく。Uberは運転手と客を結びつけるサイトである。
    *100万人の利用客/日。Uberの時価総額はフォードやGMを上回る(ただし上場はしていない)。
    ・ほとんどのアメリカの都市では、タクシーより安価。これはUberが需要と供給をうまくマッチさせる仕組みを持っているから。
    3)仕事の性質の変化
    *以上のようなことから見ても、オンライン・プラットフォーム・エコノミーに参加する労働力の割合は、年々増加し、今では成人人口の4%程度となっている。
    4)金融部門のオンライン・プラットフォーム・エコノミー化に関して:その特色
    *安定性:システムの多様さが維持される。
    *効率性:利幅は低く、取扱量は増える。
    *金融システムの民主化が進む(世界で銀行に口座を持つ人口は6割、20億人が持たない)。
    5)金融部門のオンライン・プラットフォーム・エコノミーの進行
    *支払いシステムの分散化⇔大銀行システムを通じた支払いシステム。
    例:ペイパル、circle,setlなど
    *P2Pの発達。英国では2015年30億ポンドに達する、
    *保険産業への影響。
     **グーグルカーによる自動車事故の大幅削減。
     **ipod(ウェアラブル)などによる健康管理による医療支出の削減。
・ホールディンはこうした変化に既存の金融システムは、そのスピードと構造変化に対して対応できるのか、という疑問を呈している。
・それができない場合は、かって鉄道が自動車の勃興とともに衰退の道を歩んだのと同じことが起こるのではないか。彼は英国銀行の幹部だから、こうしたことの明言は避けているが、この講演の趣旨はその一語につきるだろう。
    
    (参考文献)
    1) Haldene A.,”Finance Version 2.0?” ,Joint Bank of England /London Business School Conference on “Is there an industrial revolution in finance services?, March 7,2016
    2)Martin Wolf, “Good News-fintech coud disrupt finace”, FT,March 8,2016

コメントをお書きください