テスラのエロン・マスク社長と本田宗一郎

 ・テスラは電気自動車で世界を先駆けるアメリカのメーカーである。モデルSはポルシェ並の加速を誇っている。ちなみにこのクルマはアメリカのコンシューマー・レポート誌の評価で、最高点の100を超え、103点を獲得した。
 ・その社長がエロン・マスクだが、彼は南ア出身の44歳だが、ペイパルの前身であるXコムの創始者でもある。いわゆるクルマ屋さんではない。
 ・その個性はきわめて強く、燃料電池のことをフール・セルと言ってバカにしたのは有名な話だ。
 ・最近、彼を巡る話題が2回ほどファイナンシャル・タイムズ紙に掲載され話題を呼んでいる(2015年8月26日、9月10日)。要するに彼のことを従来型の経営者と見て判断するのは間違いと言うのがそこでのポイントだ。たとえば現在の世界の自動車メーカーは、分業方式(部品を世界各国から調達し、その組立を自社で行う)を取っているが、テスラは自社で部品も作成するという垂直統合方式をとっている。この結果、リチウム電池を家庭用などに販売するという新たな市場開拓が可能になっている。 
・いずれにせよテスラは技術開発に巨額な資金を投じており、なかなか黒字にはならないが、それでも株価が高いのは、こうしたエロン・マスク氏の現状打破的試みを市場が高く評価しているからだ。それによって赤字下でも技術開発が可能になる。

 ・これを見て、ホンダの創始者である本田宗一郎を思い出した。
 ・ホンダは、資本金600万円の時に、4.5億円を投じて海外の工作機械の購入を決断した(1952年)。これは高精度の工作機械を利用することで、ホンダの製品の精度を飛躍的に向上させ、他社の追随を許さなくさせるためだった。現在の言葉で言う、リスクテークなどという生やさしいものではない。
 ・当時のホンダの製品開発を見ても、テスラに重なるところがある。ホンダのスーパーカブは1958年発売開始以来、現在でも売れており累積販売台数は8,700万台に達するという(ウィキペディアによる)。

以下ちょっと技術の細かい点にわたるが許されたい。
 ・このオートバイは、シリンダ容量50ccで4サイクル方式を取り、4.5馬力を出した。これは驚異的な数字である。当時の小型オートバイは簡単な2サイクル方式をとっており、せいぜい2馬力程度の出力だった。4サイクル方式は単純に言うと、2サイクル方式の半分の馬力しか出ないから、それが2サイクル方式の馬力を遙かに超えるのは、常識外れと言って良い。
 ・これを可能にするために、ホンダは回転数を倍に上げた。確かに回転数を倍にすれば、馬力は高まるが、回転数を倍にするためには、ピストンの冷却が重要になってくるため、オイルの強制潤滑が必要になる(これはレース用のオートバイが採用するやり方だ)。しかし大衆オートバイにそんな装置は付けられない。その代わりにクランクシャフトにスプーンを付け、それでオイルを掻き上げてピストンを冷やすやり方を取った。まさに誰もが思いつかなかったことだ。しかも外国製の精度の高い工作機械を活用したため、耐久性も問題なかった。こうして常識外のスーパーカブが誕生したわけだが、これは本田宗一郎の天才的なセンスの賜物といってよい。
・ホンダが登場した当時、本田宗一郎はアプレ(このフレーズは今では死語だが、要するに第二次大戦後に出てきた成り上がりのことを指す)と呼ばれバカにされたが、今や世界有数の自動車メーカーにまでなったホンダの基礎を築いたことは間違いない。
・この意味でファイナンシャル・タイムズ紙がテスラの社長エロン・マスク氏につけたタイトル、「テスラのことを合理的に考えたら本質が見えなくなる」はいろいろ考えさせられるところが多いと思う。

(参考文献)
Philip Broughton,”To be rational about Tesla is to miss the point”,FT,Aug.26,2015
Andy Sharnab and Richard Waters,”Tesla:Time to accelerate”,FT,Sept. 10,2015
井出耕也、「ホンダ伝」、WAC,1999

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