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自動車のコモディティ化:燃料電池車の将来は?

・日本では未来技術として燃料電池車がもてはやされている。最近トヨタやホンダが新しい燃料電池車を発表し、自治体などが購入に積極的に取り組んでいる。しかしこれは世界の大勢だろうか。

・アメリカの高級EV(電気自動車)にテスラがある。すでに日本でも売られており、最新のモデルSで800万から1,200万円程度である。ユーザーレビューはカカクコムで見ればよいだろう。このクルマはまさにIT技術そのものであり、面白いのはソフトが一定期間ごとにアップロードされ、性能が改良される点だ。まるでパソコンやスマフォのようである。

・このクルマの最大航続距離は約500キロだが、特色はその高速性にある。時速100キロに達するまでの時間が3.4秒となっており、EVの特性をうまく生かしている。ポルシェ911ターボをやや上回る速さである。これはインホイール・モーター(車輪の中にモーターを組み込む)とモーターの初速における内燃機関より高いトルク優位性のためかもしれない。

・このテスラのCEOのマスク氏が昨年末、燃料電池車をフールセル(fool cell)と揶揄して物議をかもした。なぜかというと、燃料電池車はスピードも出ないし、高いし、インフラ整備が大変だからだ。しかも環境に優しいかどうかは、燃料である水素を何から作るかに依存する。

・テスラの販売台数は,2014年で3万台程度、2020年には50万台と見積もられている。問題は、クルマが家電化することで、生産から販売構造が一気に変わる可能性のあることだ。

・これはクルマに家電にはあるヤマダ電機やヨドバシカメラが無いことをみればわかりやすい。家電の場合、ヤマダ電機などに行けば各メーカーの製品を比較して買うことができる。また人気の無い製品は、こうした店で大幅ディスカウントされて売っている。しかしクルマの場合、メーカーごとに販売店があり、また売れ行きの悪いクルマが一カ所でたたき売られていることもない(ただし最近は軽自動車の販売競争が激化して、新古車のマーケットができつつあるともいわれている)。

・こうしたクルマに特有な(石油産業の場合も似た構造がある)生産・販売様式のことを垂直統合方式という。トヨタやホンダなどの大メーカーは部品メーカーから販売店までをコントロールし、それによって利益を上げる仕組みになっている。

・しかしクルマがIT化し、その肝がエンジンでなく(燃料電池にこだわるのはエンジン重視型思考ともいえる)、ソフトになったらどうなるだろうか。自動車メーカーの優位性は消失し、ソフトを供給するハイテク企業に利益と業界の将来を牛耳られることになる。これグーグルなどの目指すところだ。ソフトが製品の性能を決め、ハードは単なるコモディティとなってしまう。そして利益はソフトを抑えた方が取る。スマフォにおけるアップルの例をみれば明らかだろう。

・たしかに日本の自動車メーカーは現在世界に冠たる存在で、日本経済は、アベノミクスではなく、こうしたクルマの稼ぐお金で生きのびている。しかし寄せ来るITの大波は、こうした日本の自動車メーカーに厳しい試練を与え、ひいては日本経済に大きな打撃を与えるかもしれない。そろそろ現実を直視する時期に来たのではないか。

(参考)
Gapper S.,”Silicon Valley is seizing the customers”,FT,March 25,2015