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イーロン・マスクの日本人口消滅論

イーロン・マスクの日本人口消滅論

  2024.03.17

・毎度お騒がせのイーロン・マスクが、日本人口は将来消滅するとX(旧ツイッター)に投稿し、話題を呼んでいる。

 

・日本での反応はこれにやや否定的だが、問題は発言の根拠だ。マスク特有のいい加減な発言とおもわれるかもしれないが、必ずしもそうではない。実はその裏付けとなる研究結果がある。

 

・それはランセット誌に掲載された「出生率、移民ならびに人口に関する2100年シナリオ:195か国対象」と題された論文だ(以下スタイン推計と略す)。ちなみにランセット誌は世界で最もよく知られ、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つである(ウィキペディアによる)。

 

・スタイン推計によると、2100年の日本の人口は5,270万人(信頼区間4,200万人-8,000万人)と見積もられている(SDGシナリオ)。

 

・これを日本側の推計と比べてみよう。国立国立社会保障・人口問題研究所の令和5年推計では、2100年の日本人口は6,280万人と見積もられている。スタイン推計の方が約1,000万人少ない。スタイン推計は手法的にもなかなか面白い。推計前提に不安定な合計特殊出生率(total fertikity rate)ではなく、コーホート合計特殊出生率生率(50年,corhort fertility age at 50 years)を用いている。また日本だけではなく全世界を対象とてしおり、移民効果も明示的に取り入れていることが特色だ。

 

・スタイン推計で面白いのは、他国との比較である。たとえばドイツは2017年人口が8,300万人だが、2100年人口は6,000万人と予測されている(SDGシナリオ)。2017年からの減少率は28%だ。これは日本の減少率59%より、はるかに小さい。同じことはフランス(減少率9%)やアメリカ(減少率12%)にも当てはまる。こうした数字をみれば、日本の人口減少率の高さは目立っており、マスクが日本消滅をつぶやくのも理解できる。

 

・以下スタイン推計に関して感じたことを述べておく。第一に、これが政府ではなく民間(大学)の予測値であることだ。日本では、人口に関しては、国立国立社会保障・人口問題研究所の予測結果が一意的に使われているが、それは民間予測がないからだ。したがって日本では、様々な将来人口に関する議論ができにくくなっている。日本でも大学等が人口予測を行ったらどうだろうか。ちなみにスタイン推計はビル・ゲーツ財団の資金を利用している。この財団に関しては、コロナの発生予測で世界中がお世話になったことは記憶に新しい。

 

・第二に、スタイン推計が日本だけでなく、世界を対象としていることだ。このため移民の流れのや、他国の将来人口との比較が可能である。これも日本の人口予測作業に取り入れたい点だ。

 

・第三に移民問題を明示的に想定しているところが面白い。日本の場合は、この問題はまだ一種のタブー化しているが、そろそろまともに議論を始めた方がよいだろう。

 

(参考)

・イーロン・マスク、ツイッター、2024年3月12日

・Stein EmilVallse etal,,"Fertility,migration,and population scenarios for 195 countries and territories from 2017 to 2100:a forecasting analysis for the Global Burden of Disease Study",Lancet,Vol.396,Oct.17,2020

・国立社会保障・人口問題研究所、「日本の将来人口推計、令和5年推計」、

2023年4月、参考表1-1

・根本かおる、「難民鎖国ニッポンのゆくえ」、ポプラ社、2017