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フレンドショアリング現象?

フレンドショアリング現象?

  2024.02.18

・フレンドショアリングとは、同盟国や友好国など親しい国に限定してサプライチェーンを構築することだ。これに関する日経新聞の記事(英国エコノミスト誌からの引用)をすでにご覧になった方も多いだろう。

 

・この言葉に興味をひかれて、マッキンゼー研究所の報告書(地政学と地政的距離と世界貿易)を読んでみた。以下要点を示す。

 

 *地政的に遠い国々(geopolitically distant economies)間の貿易は世界貿易の2割を占めるが、特定の国に生産の集中している商品(ラップトップや鉄鉱石など)に関しては4割を占める。

 

  *2017年以来、中国、ドイツ、英国、アメリカは貿易に関して地政的距離を短縮(つまり地政的に遠い国とは付き合いを減らす)してきたが、アセアン諸国(タイ、インドネシア、ベトナムなど)やブラジル、インドは逆に地政的距離を伸ばしてきた。

 

 *先進国の途上国に対する直接投資はこのパターンを変えていくかもしれない。近年ではアフリカとインドへの投資が増え、他方で中国やロシアへのそれは激減した。

 

 *地政的距離の短縮は、世界貿易の伸びを低下させる。

 

・以上がマッキンゼー・レポートの簡単な要約だ。当然のことだが、ウクライナ戦争、ガザのおける軍事衝突、フーシ派による紅海での航路妨害は、地政的距離の短縮(地政的に遠い国とは付き合いを減らす)を進める可能性が高い。また本年行われる米国大統領選挙も、この傾向に大きな影響を与えるだろう。

 

・貿易依存が高い日本にとっては、フレンドショアリングの進行は大きな問題だ。

 

・過去を振り返る。第二次大戦前、日本は満州侵略を契機として国際連盟から脱退し(1933年)、以降英米との関係が疎遠となった。さらに日本の北部仏印進駐を契機にアメリカから日米通商航海条約の破棄を通告される(1939年)。そして1941年には、アメリカより石油禁輸を通告された(1941年)。開戦への道だ。

 

・今回の場合はどうだろうか。上に見たように、世界は地政的距離短縮の方向に向かっている。日本が、このトレンドにどう対応するかは、アポリア(解の容易に見つからない難問)だ。今から真剣に対処法を考えておく必要がある。

 

・マッキンゼー・レポートに戻ろう。この論文の結論を左右するのは、どのように地政的距離を測ったかだ。実はマッキンゼー・レポートにはこの点があまりきちんと説明されていない(Sidebar1.Measuring geopolitical distance and its limits)。これに関しては、別稿で取り上げることにする。

 

(参考)

・日本経済新聞、「『フレンドショアリング』」の虚実、2024.01.30

・Economist,The false promise of friendshoring,Jan.25,2024

・Jeongmin Seong etal,”Geopolitics and the geometry of global trade,

Mckinsey Institute,Jan.17,2024