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有識者会議無用論

有識者会議無用論

   2023.07.22

・近頃有識者会議が流行っている。ちょっと見ただけで、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」、「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」など様々だ。

 

・一見すると、これはより良き政策決定のための有意義なやり方にみえる。その分野の専門家を集めて、その意見に基づいて、政策が決められていくようにみえるからだ。

 

・しかし実際には、そうはならない。保坂正康氏が述べているように、太平洋戦争に至る海軍側の意思決定の経過がこれを物語る(以下、保坂p88よりの要約)。

 

 *太平洋戦争開戦に熱心だったのは海軍だった。

 

 *その中心となったのは、海軍省軍務局にいた石川信吾、岡敬純、軍令部作戦課の富岡定俊など。

 

 *彼らは昭和15年及川古志郎海相の下、海軍国防政策委員会を設立。以降海軍内での政策決定はこの委員会が牛耳るようになる。

 

 *その第一委員会(戦争指導方針の決定)のリーダーが石川と富岡で、彼らが巧妙に日本を対米英戦に持っていくように画策した。

 

・保坂氏はこの委員会の問題点として、「彼ら(筆者注:石川、富岡)は巧妙であった。官僚として動くので決して目立つことはない。責任がかからぬよう、うまく計画もされている」(p91)と述べている。

 

・これを当事者として問題にしたのが、海軍大将井上成美(1889-1975)だ。かれは米内光政、山本五十六とならんで、日独伊3国防共協定(1937年)に反対したことで知られる。

 

・井上は第一委員会に関して以下のように述べている(戦後の回想、1970年東北大学池田教授の質問に答えて、阿川、p558)。

 

 「実際は第一委員会がいけないというより委員会という制度そのものがよくないんだね。・・・委員会とは要するに責任を回避する為の組織ですよ、今の内閣が、何か難しい問題にぶつかるとすぐ調査会とか審議会とかを作るのを新聞で読んで、ああ同じことをやっているなと思います。あれを作ると、責任の所在は分散して、だれが本当の責任をとるのかはっきりしなくなる。殊に第一委員会のような秀才ぞろいの委員会では、・・・上が何も勉強していない無能な大臣総長だと・・・つい盲判ということになる・・・その結果此処まできたら対米一戦やむを得ないんじゃないかとういような、とんでもない結論が、・・・責任者不明の、きわめてあいまいな形で大勢を支配し始める」

 

・現代に戻るが、今の有識者会議とここでやり玉に挙がった第一委員会とどこが違うのだろう。官僚の無責任体制を防ぐためには、政治家が見識をもたねばならない。またマスコミが政策課題の問題点をきちんと分析することも必要だ。これがないと、太平洋戦争といった悲劇の二の舞が生じかねない。

 

(参考)

・保坂正康、「あの戦争は何だったのか」、新潮社,2005

・阿川弘之、「井上成美」新潮社、1992