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BYDの躍進

BYDの躍進

  2024.03.02

・中国の自動車企業BYD(比亜迪)の躍進が止まらない。2023年には年間販売台数が300万台を超えた。これは日産の販売台数(337万台)に匹敵する。またEV(電気自動車)でも、2023年第4四半期には、その販売台数はテスラを超え、瞬間的だが世界一となった(52万台対48万台)。同社はすでに日本でも販売を開始しており、ネットで洒落た広告を見た人も多いだろう。ちなみにBYDとはBuild Your Dreamsの略とも言われている。

 

・BYDは1995年創業、まだ30歳に満たない若い企業だ。当初は電池を販売。2005年にガソリン車「BYDF3」を発売。2008年にはハイブリッド車「BYDF3DM」を販売。そしてEV(電気自動車)に参入した。日本にも進出済みで、同社のEVが購入可能。ATTO3が450万円で、航続距離470KM。その空力性能(cd値)は0.29とスマートだ。また普及車のDOLPHINは363万円で航続距離400KM(LONG RANGE版では476KM)などとなっている。

 

・BYD車の強みは、第一にスタイルの良さ。これはアウディやランボルギーニのデザインに携わってきたボルフガング・エッガー(Wolfgang Egger)を雇い入れたことによる。第二にコストパーフォーマンスの良さ。スイスの銀行UBSの推定によると、BYDハッチバックのコストはフォルクスワーゲンID.3のそれを35%下回るという。その理由の一つが電池の原料をリチウムからニッケル・コバルト・マンガンに変えたことだ(ニューヨークタイムズ)。

 

・さて日本車はBYDに対抗できるだろうか。BYD生産台数年間300万台という数字は、マツダの124万台、三菱自動車の102万台(2023年)を大きく上回っている。またEV化でも日本車を抜き去っている。イーロン・マスクは本年1月に、「正直に言えば、貿易規制がなければ、(BYD:筆者注)は世界の同業他社のほとんどを破壊しつくすだろう」と述べたそうだ(ニューヨークタイムズ)。

 

・日本の自動車メーカーは今のところ販売台数で世界のトップを走っている。しかし気を付けなければならないのは、「歴史は繰り返す」ということだ。かっては日本車がアメ車を駆逐した。今度は中国車が日本車を駆逐する番かもしれない。

 

・日本車がアメリカに輸出を始めた1970年代には、いくつも笑い話があったようだ。冬のシカゴでの融雪剤によって日本車の床がさびて抜けたりした。またカリフォルニアのハイウェーでは、アメ車のスピードに乗れず、日本車のエンジンが焼き付いたりした。当時の日本車の状況は、アーサー・ヘイリーのベストセラー「自動車」を読むとよくわかる。

 

 「『どれだけ品質が向上しても』と、メカニックはいった。『日本車だけはそれと無関係ですねーー少なくともこのがらくたを作った日本の工場だけは、ーー『これだけは言っておきたい。わたしだったら好きな人間にはこんなクルマを乗り回してもらいたくない』」(アーサー・ヘイリー、p338)

 

・今の日本車メーカーは世界一の座に安住しているようだ。しかしBYDの進撃はあなどれない。IT時代の今日、一挙にリーダーが交代するのは当たり前だ(iPhoneモーメント)。このままでは10年たたないうちに、日本の自動車王国は衰退への道をたどるのではないか。ちょっと心配だ。

 

(参考)

・Keith Bradsher,”How China Built BYD,Its Tesla Killer ”,NewYork Times、Feb.12,2024

  Gigazine、「テスラを抜かしてEV販売台数1位に躍り出た中国企業「BYD」躍進の理由とは?」、2024.02.23

・River Davis,"As Hybrids Gain Popularity,Skeptics Ask if They are Sufficiently Green",WSJmFeb.29,2024

 「ハイブリッド車の『エコ度』は十分か 米で論争勃発」

・アーサー・ヘイリー、「自動車」、永井敦訳、新潮文庫、1979