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ゲイン・オブ・ファンクション(Gain of Function:GOF)に関して

ゲイン・オブ・ファンクション(Gain of Function:GOF)に関して

  2024.01.27

 

・AIの専門家サレイマンの”来るべき波”(The Coming Wave)(本年1月7日のブログで取り上げた)を読んでいたら、ウィルス感染に関して気になる叙述(ゲイン・オブ・ファンクション:Gain of Function)を見つけた(Suleyman、p175)。ちなみに彼は、”来るべき波”として、以下の2つを取り上げている。第一はAI、第二は合成生物学(synthetic biology)である。ゲイン・オブ・ファンクションは後者に属する。

 

・ゲイン・オブ・ファンクション(Gain of Function:GOF)とは、病原体の致死性や感染性を高める手法のようだ。通常ウィルスは、致死性と感染性に関してトレードオフの関係にある。つまり感染性が高ければ、致死性は低い。逆は逆だ。しかしなぜそうなるかに関しては、はっきりわかっていない。したがって両方の性質(致死性と感染性)を高めようとする研究があってもおかしくない。

 

・この危険性は、最近のCovid騒動の感染源をめぐる議論で話題になった。一部の研究者は、実験材料が研究所から漏れたことが、今回のパンデミックの原因だと考えているようだ。

 

・そうした論争の一つの流れ表れとして、最近アメリカ・ウィスコンシン州では、人間の病原体をより危険な方向に向かわせる可能性を持つ研究の停止に関する公聴会を開いたようだ。しかし科学者はこうした禁止がむしろマイクロ・バイオロジー(微生物学)の発展を妨げるのではないかと懸念している。

 

・当初のサレイマンの議論に戻るが、彼はこうした研究によるウィルスの流出は避けがたいと考えているようだ。例えば、2014年に行われたリスク評価によると、今後10年以内に10か所の研究所からの大規模な流出が起こる確率は91%で、それが世界的大流行(パンデミック)につながる可能性は27%であったという(Suleyman、p175)。

 

・筆者は、生物学に疎いので、以上の議論の意味するところをきちんと評価できない。しかし日本でもこうした問題を早めに検討しておく必要があろう。ちなみにGain of Functionはウィキペディアでは英語の解説があったが、日本語の解説は見出せなかった。この言葉は、まだ専門家サークル内にとどまっているのだろうか。我々みんなの将来に関することなので、生物関連ジャーナリストの鋭い分析を期待したい。

 

(参考)

・Jocelyn Kaiser,Wisconsin bill to restrict pathogen studies worries scientists,Science,2024.01.14

・Mustafa Suleyman & Michael Bhaskar,The Coming Wave,Penguin Randomhousem,2023