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リモートワークがもたらすもの

リモートワークがもたらすもの

  2023.12.24

・ニコラス・ブルーム教授(スタンフォード大学)がリモートワークのアメリカ経済社会に対するインパクトを簡潔にまとめている。以下その内容を紹介する。

 

 *新型ウィルスの世界的流行を契機として在宅勤務は5倍に増えた。在宅勤務は一般化し、週に数日のみ出社するハイブリッド勤務という形で定着した。これは米国労働市場で第二次大戦後に生じた最大の変化だ。

 

 *一番打撃を受けたのは都心のオフィスや商業不動産だ。オフィスは人が半分程度となり、中心街にある商業施設の客も減った。

 

 *公共交通システムは、出社ペースが週5日から週2-3回に変わったため、乗客数が3割減少した。

 

 *大都市住民が郊外に移り、大都市の税収も減った。

 

 *在宅勤務は労働者にとってメリットが大きい。週2-3日の在宅勤務が可能なことを労働者は8%の賃上げと同等に評価している。これは勤務時間の短縮、ストレス軽減、家族と過ごす時間の増大などのメリットによる。

 

 *リモートワークは環境にも良い影響を与える。在宅勤務による移動とオフィスのエネルギー消費が減るため。週2日の在宅勤務で汚染物質は約15%削減できる(なおYanqiu氏らの研究は、リモートワークで温暖化ガス排出量は大幅に減る可能性があることを示している、参考文献2)。

 

・以上がブルーム論文の内容紹介だ。日本でも在宅勤務が定着しつつあり、氏の議論は参考になる。たとえば日本でも大都市の空洞化は、これから本格化する。これは大都市のオフィス街で顕著だろう。

 

・また通勤ラッシュも減り始めている。たとえば地下鉄東西線では、「新型コロナ感染拡大に伴う外出自粛、テレワークやオフピーク通勤に伴い、南砂町や東西線全体の利用者数は大きく減少しています。そのため・・・南砂町駅と同じく施設の拡張工事が進められていた木場駅の工事計画を大幅に見直す」そうだ(RF未来へのリポート、2022年8月24日取材)。

 

・しかし多くの労働者にとっては、リモートワークはプラス面だけではない。たとえばズームやチームズを使ってオンライン会議をすると、”不要な参加者”がはっきりしてしまう。これまでオフィスの中で何とか生き伸びていた人々が、”無用の長物”として排除される可能性もある。

 

・他方でリモートワークは、反面的だが、オフィスで同僚と一緒に仕事をするメリットをはっきりさせた。当方のようにソフト開発をしているところでは、職場での何気ない議論が仕事を進めるのに貴重なヒントになる。これはリモートでは期待できない。

 

・こうしてみると、リモートワークの進行は、とくにとがった才能のない労働者にとっては、マイナスに働く。また町並みでいえば、高層ビルが立ち並ぶ丸の内や霞が関から人が消えるのはそれほど遠くない将来だろう。他方で渋谷や北千住のような雑多な町は、人々の交流の場として生き残る。郊外でいい空気を吸いながら、パソコンを使って仕事をし、時々都心に出て人に会うというのがこれからのライフスタイルだ。

 

(今年のブログはこれでおしまいです。一年間お付き合いいただきありがとうございました。次回は来年1月初旬となります)。

 

(参考)

(1)ニコラス・ブルーム、「リモートワーク革命、勝者と敗者は結局だれか」、WSJ、2023.12.18

 Nicholas Bloom,"The Biggest Winners and Losers from the Work-From-Hpme Revolution".

(2)Yanqiu Tao,Longoi Yang etal,”Climate mitigation potntials of teleworking are sensitive to changes in lifestyle and workplave rather than ICT usage",PNAS,120(39)e2304099120,Sept.18,2023

(3)RF未来へのリポート、「東京メトロ東西線南砂町駅改良工事」、2022年8月24日取材