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テスラ旋風はどこまで続くか

テスラ旋風はどこまで続くか

  2023.10.15

・テスラに関する雑誌ファクタの記事は出色だった(以下ギガプレスに関しては、ファクタからの引用、文献1)。ここで取り上げているのはテスラの「ギガプレス」だ。自動車の車体後部は通常80個程度の鉄のプレス部品を溶接でつなぎ合わせるが、テスラはこれを一つの部品とした。これを実現したのが「ギガプレス」だ。これは巨大鋳造マシンで溶かしたアルミ合金が入った金型に圧力をかけ骨格を作る。当初は3千トン締め付けの2つの金型を使っていたが、21年には6千トン級一つの金型で対応、さらに2022年には車体前部もギガプレスで一体成型できるようになったという。このギガプレスを作っているのはイタリアのイドラ社(IDRA)だ(IDRA | Flash News ? Giga Press:YouTube)。

 

・面白いのは、イドラ社のプレスリリースはYouTubeのみで、しかも言うことがかっこいい。「大きな夢を持ち、やるべきことが分かっていれば、子供たち、孫たちの世代のためにも世界をより良く変えることができます」(EV Smart Blog,2021.3.25より引用)。

 

・日本もこれに追いつこうとしており、トヨタは2026年発売のEVからギガキャストを導入予定だという。また自動車アルミ部品メーカーのリョービはギガキャスト向け鋳造機を作る予定だが、6千トン級とみられている。つまり圧倒的に遅れている。

 

・実は筆者は5年ほど前に、YouTubeでNational Geographicのテスラ工場見学記を見たことがある。そのときこのギガプレスには本当に驚かされた(文献2)。アルミがこの機械に入れられてクルマの車体を形成していくのだ。日本のクルマ技術者だったら、同じ感想を持つはずだ。なぜそれが日本のクルマ産業の変革にすぐに結びつかなかったのだろうか。

 

・テスラでもう一つ見落とせないのは、同社のスパコンDojoの存在だ。イーロン・マスクはオープンAIの立ち上げにも加わっており、AIのプロだ。しかも同社が販売するEVのデータはテスラ社がすべて収集している。これがAIの学習に役立つ。ちなみにモルガン・スタンレーはDojoの価値を最大5000億ドル(約70兆円)と試算した(文献3)。つまりAIが今後のクルマ戦争でのテスラの貴重な武器になると踏んだわけだ。

 

・テスラがこのデータを使い、生成AIを訓練すれば、自動運転は新たな次元に突入する。しかもこれはテスラにとって新たな収入源になりえる。おそらく同社は、AIユニットを既存の自動車メーカーに売り込むのではないか。とすれば、テスラはスマホにおけるクアルコム社に相当する位置を確保する。

 

・ではテスラに敵はないのか。その可能性の高いのが、中国の自動車メーカーBYDだ(文献4)。同社は1995年にバッテリーメーカーとして創立。本年ハイブリッド車などの販売で(360万台)、世界の10大カーメーカーの一角に食い込むようだ。BYDは”Build Your Dreams”の略だそうだ。EVメーカーとしても本年第三四半期に43万台を販売、これはテスラの販売台数とほぼ同数だ。すでにオーストラリア、スウェーデン、タイ、イスラエルではEV販売のトップを占めている。

 

・日本に戻るが、ともかく変化への対応が遅い。太平洋戦争のときに日本海軍が固執した大艦巨砲主義を思い出す。いつの時代も、過去の成功体験におぼれていては、将来はない。ちなみに戦艦大和は、出陣の機会に恵まれず(最後は沖縄向け特攻で沈没)、ヤマトホテル(戦前に中国大連にあった満鉄経営の高級ホテル)と呼ばれていたそうだ。EVに関しても、日本の役所やクルマメーカーのトップは変革スピードに追いつけていない。

 

(参考)

1)ファクタ、「EVで露呈『モノづくりの落日』」、2023年10月号

2)National Geographic Tesla Motors Documentary HD - YouTube

2017/07/18

3)Stephen Wilmot,"How Much is Tesla Wortj? You Decide".WSJ,Sept 29,2023

4)River Davis & Selina Cheng,"How China's BYD became Tesla's Biggest Threat",WSJ,Oct.4,2023