日銀の株式購入に関して
2019.04.14
日銀が相変わらず株式市場でETFを買い続けている。直近の例だと、4月9日に705億円(これ以外に設備投資・人材投資に積極的に取り組んでいる企業支援のため 12億円)、4月10日および4月11日に同額を投じている(https://www3.boj.or.jp/market/jp/menu_etf.htm)。こうした購入は既に10年を経過しているが、日銀の目標である物価の2%上昇は依然として達成されていない。
これを見ると、日露戦争時の旅順攻略戦を思い出す。乃木軍が同じパターンで攻略を繰り返すが、損害が大きくなるばかりで、結局児玉参謀総長が攻城砲の使用を命令して、戦局を打開した件(くだり)は、司馬遼太郎の「坂の上の雲」でよく知られている。そろそろ日銀にも”児玉”が必要になってきたようだ。
日銀の株価維持策が、物価上昇に役立っていないだけでなく、その副作用が大きいことに目を背けてはならない。マイケル・ジェンセン(ハーバード・ビジネス・スクール)がアメリカ金融学会会長に就任したときの就任論文、「現代の産業革命と企業の退出、ならびに企業内ガバナンスの喪失意味」は、この点を鋭くついており、一読の価値がある。
ジェンセンは、株式市場の意義を、企業に対し衰退分野から早めに退出するためのシグナルを与えるところにある、という。現在の大企業は衰退分野を抱えていても、内部的な”政治情勢”からなかなかその切り捨てに踏み切れない。しかしある企業が、株式市場で株価が低迷し、その原因がその企業の不採算分野の維持による利益低迷だったらどうだろう。株価の低迷は、当然のことながら、企業の資金繰りに影響を及ぼす、したがって企業内の意思決定に関しても、衰退分野からの撤退に対する圧力が強まるだろう。
しかし日本のように株式市場に日銀が介入し、人為的に株価を維持していると、市場のこうした働きは期待できない。株式相場は言ってみれば、資本主義の体温のようなものだ。熱が出ているのに、熱冷ましで無理やり体温を抑えれば、かえって病状が悪化してしまう。諸外国も日銀のやり方に、そろそろ疑問の目を向け始めている。展望を持たずに株価維持策を続けていると、情勢の急変で、日本経済がおかしくなり、慌てふためく事態が起こらないとも限らない。そろそろ大量の歩兵投入ではなく、攻城砲の活用という形で、戦局の一変を図るときがきたのではないだろうか。役に立たない戦術を、先の見通しもなく続けることは、誰にとってもプラスにはならない。
(参考)
・Whiffin A."BoJ's donminance over ETF's raises concern on distorting influence",FT,Apr.12,2019
・Jensen M.C.,"The Modern Industrial Revolution,Exit, and the Failure of Internal Control Systems",Journal of Finance, Vol.xlviii,No.3,July 1993