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よりよい経済予測を求めて

・最近の政治・経済情勢の不確実性の高まりを見ると、より精度の高い予測結果が求められていることはたしかだ。ユーロ圏はどうなるか、ロシアは孤立姿勢を貫けるか、中国の経済情勢は今後どうなるか、など知りたいことは数多い。

 

・アメリカの心理学者テトロックが、「専門家の政治的判断」(Expert Political Judgment )を出したのは2006年のことだ。まず彼は、モノの見方を2つに区分する。第一は、ヤマアラシ型(hedgehogs)であり、彼らはしっかりした理論的枠組みを立て、それに基づいて将来事象を判断する。第二はキツネ型(fox)であり、現実の細かい情報を収集し、臨機応変に分析視点を変えながら、物事を判断する。テトロックの主要な結論は、将来事象の予測に関しては圧倒的にキツネ型が有利であるというものであった。エコノミストはとかくミクロ経済学のような理路整然とした壮大な枠組みを使って物事を判断しがちだが、テトロックの指摘は、こうした見方に対する一つの戒めになったと思われる。事実2008年の金融危機以降経済学の枠組み自体が揺らぎ始めている。

 

・最近のFTを読むと、テトロック達は、さらにこの分野での研究を進めたようだ(Harford,How to see into the future,FT,Sept.5,2014)。そのプロジェクトは「より良き判断プロジェクト」(Good Judgment Project)と名づけられ、人々の衆知をどのように活かして、よりよい判断に結び付けるかをテーマとしている。

 

・その結論は、①一人で判断するより多くの専門家が加わったほうが、判断に間違いが少なくなる、②多様で矛盾する考えも包摂することが大事、③数理的モデルがあれば、それを活用することは良い判断につながる、などであった。

 

FTの記事は、経済予測に関して、フィッシャー、ケインズ、バブソン(1920年代から1930年代にかけてアメリカで活躍した経済予測家)の言説を丁寧に追いながら、この問題を掘り下げている。ケインズは偉大な理論家ではあったが、彼は資産運用に置いては、マクロの枠組みなどを使わず、バッフェット流を貫いたのが成功の原因だという。

 

・いまや予測ビジネスの市場規模は世界で2,000億ドルともいわれている。またIT革新の結果、ビッグデータが現在では,容易に利用可能になっている。こうした環境下で、ヤマアラシ型でなく、キツネ型、つまりモデルと人間の衆知とビッグデータを組み合わせた経済予測手法の登場が期待される。当社が開発中のリアルタイム・シミュレータは、このトレンドに沿ったものである。

 

(参考文献)

1)室田泰弘、“経済危機を予見する新しい経済学の胎動”、エコノミスト、2011.11.14

2Ungar L.,Mellors B.,Satopaa V.,Baron J.,Tetlock P.,Ramos J.,Swift S.,”The Good Judgement Project: A Large Scale Test of Different Methodsof Combining Expert Predictions”,AAAI Technical Report FS-12-06,2012

 

3)Tetlock Phillip, Expert Political Judgment, Princeton Univ. Press.,2006